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ヤシの葉が広がる道を、一匹の猫が歩いていきます。足もとには舗装の継ぎ目が続き、海側には船の細いマスト。木の柱が並ぶ家のベランダと、水面のひらけた明るさが、猫の小さな姿を包んでいます。
今回のぬりえは、ニューカレドニアのヌメアを題材にした「港町の並木道で歩く島の猫」です。
ヌメアは、海と街の距離が近い都市です。湾ごとに異なる表情があり、港、住宅地、散歩道をたどると、南太平洋の風景のなかに日々の暮らしが見えてきます。
猫を主役に眺めれば、壮大な眺望だけでは気づきにくい、道端の植物や家の軒先にも目が向きます。
この作品は、ヌメアの地域資料を参考に構成した創作場面です。特定の通りや実在の猫を記録したものではありません。港、ヤシ並木、住宅という題材の背景を知りながら、猫の目の高さに近いところから街を見つめてみましょう。
海へひらけたヌメアと、古い家に残る暮らし

ニューカレドニアの中心都市ヌメアは、グランドテール島の南西部にあります。いくつもの湾が半島を縁取り、街のなかでも海の見え方が変わります。
海岸線をひと続きの砂浜として思い浮かべるより、港の水面、住宅地の入り江、散歩を楽しむ海沿いの道を、それぞれの場所として捉えると、ヌメアの姿がわかりやすくなります。
都市の成立をたどると、1854年にポール・ド・フランスという名で設けられた拠点に行き着きます。
1866年には、マルティニークのフォール・ド・フランスとの混同を避けるため、ヌメアへ改称されました。現在の街並みは、自然の地形の上にそのまま家を並べて生まれたものではありません。湿地の埋め立てや地形の整備、水の確保など、都市を築くための工事が重ねられてきました。
その建設を支えた人々には、流刑に処された囚人たちも含まれます。植民地時代の建物は、形の美しさとともに、そうした歴史を伝える存在です。南の島に残る古い家を、ただ異国的でかわいらしい風景として見るだけでなく、誰が建て、誰が暮らしていたのかを考えると、街の奥行きが増してきます。
古い住宅を知る手がかりになるのが、フォーブル・ブランショ地区です。観光局は、この地区に残る木造のコロニアル様式住宅と、それらをめぐる散策コースを紹介しています。
代表的なメゾン・セリエールは1898年の建築。保存された住宅を通して、ヌメアの過去の暮らしに触れられる場所です。ただし、この家と港が作品のように隣接して見えるという意味ではありません。
図案の左側に置いた住宅は、固有の建物を写したものではなく、木造の壁、屋根の張り出し、ベランダの柱、鎧戸といった要素を整理した創作です。柱の奥に壁があり、壁の手前に人が過ごせる半屋外の空間がある。
そんな家のつくりを見つめると、建築が街路と室内をゆるやかにつないでいることが伝わります。
海辺の生活を知るもう一つの入口が、ポートモーゼルです。市営市場では、果物や野菜、魚介類、工芸品などが紹介され、近くには船が集まる港があります。
ヌメアの海は、眺めを楽しむ背景であると同時に、食べものや人の行き来と結びついた場所でもあるのです。市場と船だまりが近いという関係から、港町の日常を想像することができます。
一方、ポートプレザンスは、マリーナと住宅、店舗が集まる別のエリアです。名前の似た港や海沿いの地区を、すべて一か所の眺めとして重ねてしまうと、本来の地理がわからなくなります。
この作品では場所を一つに断定せず、猫が歩く道の先に港がひらける、という物語の場面として表現しました。
猫の目線で見つける、街の小さな風景

作品の主役は、特定の血統を設定しない短毛の猫です。
題材表にある「ニューカレドニアの地域猫」は、この土地の猫を表すための呼び方として扱っています。「ニューカレドニア」という名前の品種を紹介しているわけではなく、縞模様も、島に暮らすすべての猫に共通する特徴という意味ではありません。
猫が一匹いることで、風景の大きさの感じ方も変わります。遠くの船のマストと、手前の猫のひげ。まっすぐ立つヤシの幹と、ゆるやかに曲がる尾。大きさも形も違うものが同じ画面に収まり、港町の広がりと、一匹の動物の身近さを同時に感じさせます。
旅先の風景に親しみが生まれる瞬間を、猫の姿に託しました。植物にも、それぞれ異なる役割があります。上へ伸びるヤシは並木の高さを示し、住宅のそばの葉や花は、猫に近い位置に小さな風景をつくります。
猫を愛らしい主役として描く一方、島の自然との関係も知っておきたいところです。
ニューカレドニアで行われた野生化した猫の研究では、在来の鳥類や爬虫類などへの捕食が報告されています。街角の一匹について、その行動や飼育状況を見た目だけで決めつけることはできませんが、島の動物を考えるときには、身近な猫と野生生物の両方に目を向ける必要があります。
そのため、この絵に登場する猫を「港で自由に暮らすことが幸せな猫」と断定したり、現地で猫と出会える場所として紹介することはできませんが、猫がいる風景を楽しむことと、その土地の生きものへの理解を深めることはできるでしょう。
まとめ|一匹の猫から広がる港町の物語
ヌメアを題材にした猫の風景には、海に面した都市の成り立ち、木造住宅の記憶、港と暮らしのつながりが重なっています。
主役の猫から背景へ目を移すと、柱の続くベランダや並木、船の浮かぶ水面にも、それぞれの役割が見えてきます。
目の前の一匹に親しみを感じながら、その向こうにある土地の歴史や自然へも関心を向けられる、そんな一枚です。

