童話

ヘンゼルとグレーテル|お菓子の家と、森を抜ける兄妹の知恵|FT055

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森の道が開けた先に、食べられる家が建っていたら、どんな気持ちになるでしょう。パンでできた壁、菓子を重ねた屋根、砂糖の窓。空腹の兄妹が見上げる家は、思わず近づきたくなる魅力に満ちています。

「ヘンゼルとグレーテル」は、そんな忘れがたい一軒の家が登場するグリム童話です。

けれども、この物語は甘いお菓子の夢だけでは終わりません。帰り道を失う不安、親切そうに見える相手の危険、困難の中で働く知恵が重なっています。

今回のぬりえでは、兄妹がまだ戸口に入る前、森の中で家を見つけて見上げる瞬間を描きました。何が二人をここまで連れてきたのかを知ると、景色の見え方も変わってきます。

小石とパンくず、お菓子の家へ続く道

「ヘンゼルとグレーテル」は、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟が編んだ『子どもと家庭の昔話』に収められています。一般に「グリム童話」と呼ばれるこの集成の第15話です。ここでは、兄弟の生前最後の版である1857年の第七版を中心に、物語の流れをたどります。

兄のヘンゼルと妹のグレーテルは、食べ物に困る家で暮らしています。森へ置き去りにされると知ったヘンゼルは、夜のうちに白い小石を集め、歩きながら道に落としていきます。

月が出ると石が光を受け、二人はその目印をたどって家へ戻ることができます。小さな石が、暗い森と家をつなぐ頼りになるのです。

しかし、もう一度森へ連れていかれるときには、小石を集められません。ヘンゼルは代わりにパンを砕き、道にまきます。ところが、戻るころには鳥たちがパンくずを食べてしまっていました。同じように印を残しても、今度は道が見つからない。

食べられない石と、食べられるパンの違いが、兄妹の行き先を大きく変えます。

森をさまよう二人は、やがて美しい白い小鳥を見つけます。その鳥を追って着いたのが、お菓子の家でした。

1857年の本文には、家はパンででき、屋根は菓子で覆われ、窓は明るい砂糖でできているとあります。屋根にとまった鳥と、食べ物そのものになった建物が、空腹の二人の前に現れる場面です。

お菓子の家と聞くと、飴やチョコレートがびっしり並ぶ姿を想像するかもしれません。今回の図案では、パンの壁と菓子の屋根、砂糖の窓という本文の取り合わせを軸にしました。

窓の数、丸い形、花形の飾り、屋根の縁の糖衣などは、挿絵として加えた創作です。文章に書かれた材料を大切にしながら、家としての形を組み立てています。

兄妹が屋根や窓を食べ始めると、中から声がし、やがて老女が現れます。食事と寝床を用意して迎えてくれますが、その正体は子どもを狙う魔女でした。ヘンゼルは閉じ込められ、グレーテルは働かされます。

助かったと思った場所が、別の危険のある場所だったという反転が、物語の緊張を高めていきます。

その後は兄妹それぞれの知恵が働きます。ヘンゼルは、目のよく見えない魔女に指の代わりに骨を差し出し、太っていないように思わせます。

最後の危機ではグレーテルが機転を利かせ、魔女をかまどに閉じ込めて兄を助けます。二人は家にあった宝を持ち、森を離れて父のもとへ帰ります。怖い出来事を経ながら、自分たちで帰還への道を開く結末です。

初めの帰り道を用意するのは兄ですが、魔女の家から抜け出す決め手になるのは妹の行動です。助ける側が一人に固定されていない点に、兄妹の関係の面白さがあります。どちらかが不安を抱えるとき、もう一人が考え、動く。

その役割の移り変わりを追うと、二人が並んだ小さな後ろ姿にも頼もしさが感じられます。

甘い家と深い森、その間にある物語

お菓子の家が魅力的なのは、単に見た目が珍しいからではありません。

長く歩き、食べ物がほとんどない兄妹にとって、家全体が食べられることは、目の前に救いが現れるような出来事です。物語の前半で足りなかったパンが、ここでは壁になるほどあります。その大きな落差が、家を強く印象づけていると読めます。

また、家は普通、雨風を避けて休める場所です。迷った森の中で戸口を見つければ、安心を期待したくなります。ところが、この家には危険が潜んでいます。

外から見える親しみやすさと、中で起こる出来事の違いが、童話の不思議な怖さを生んでいます。兄妹にとっては発見の喜びの場面でも、結末を知る読者には別の意味が見えるのです。

そのため、主図では魔女を外に出さず、扉を閉じたままにしました。兄妹の視線は屋根へ向かい、家の中はまだわかりません。

一方、本文用の挿絵では、杖をついた老女が戸口で迎える場面を描いています。ここでの柔らかな表情は、登場時の親切そうな振る舞いを表すものです。姿の年齢だけで善悪を示すのではなく、後に明かされる行動との違いを読むための場面です。

背景の森にも役割があります。高い木々が重なると、遠くまで見通すことが難しくなり、道の曲がり方や目印が大切になります。今回の絵では、家の周りに木の幹や枝葉を重ね、前には兄妹が立てる道を開けました。

大きな家と小さな子どもの対比が、初めて出会う場所への驚きを伝えます。

パンの壁の継ぎ目、屋根の重なり、窓の輪郭をたどると、食べ物が建物になるという発想の楽しさが見えてきます。いつもは手に取れる小さなものが、人の入れる大きさになっているのです。花や葉が育つ地面にその家を置くことで、現実らしい森と、現実にはない家が隣り合う童話の景色にしています。

小石をたどる場面と家を見つける場面を比べると、頼りにしているものの違いも見えてきます。小石はヘンゼル自身が用意した目印です。家は二人の知らない相手が用意した場所です。

どちらにも帰りたい、助かりたいという気持ちが向かいますが、同じ安心をもたらすとは限りません。風景の中の物が、人物の判断と深く結びついています。

なお、この話には版による違いがあります。ピッツバーグ大学のD・L・アシュリマンによる比較資料は、1812年の初版と1857年の版を並べ、母親の呼び方や、帰路に水辺を渡る挿話などの変化を示しています。

初版では母として描かれた人物に、後の版で継母という呼称が加わりました。ただし最終版にも母という呼び方は残るため、単純にすべてが置き換わったわけではありません。

こうした違いを知ると、子どものころ読んだ絵本と別の本で内容が少し違っていても、不思議ではないとわかります。

今回の記事では版の異なる細部を一つの原文として混ぜず、1857年版を基準にしています。図案の服装や建物の装飾は特定の実景を再現したものではなく、その物語から生まれたオリジナルの想像画です。

まとめ

「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家は、空腹の兄妹を引き寄せる魅力と、見えない危険を併せ持つ場所です。小石、パンくず、屋根、窓といった身近なものが、帰り道や運命を変える重要な役割を担っています。

家を見上げる二人の姿には、まだ先を知らない驚きがあります。

その先で互いを助け、森を抜けていく兄妹の歩みを思うと、甘い家の景色は、知恵と勇気の物語への入口にもなります。

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